奇しくも同モデルのリフィニッシュを行いました。

 

Hardy Bros. Palakona The Gold Medal

Hardy Bros. Palakona The Gold Medal

昨年秋の事ですが、禁漁語まもなく数本の竹竿の修理の依頼をお受けしました。
修理の依頼主はそれぞれ全く違う方なのですが、偶然ハーディーのゴールド・メダルのWハンドルモデル(13ft,3ピース)と同シングルハンドルモデル(9ft6inch,3ピース)がありました。
良く観るとインスクリプトの字体が同じですので、きっと同じ職人さんが書かれたものと思われます。
という事は、同じ時代に作られたものなのでしょう。その職人さんがどの位の期間ハーディーに在籍されたのかは分かりませんが、何十年もの隔たりがあるとは思えません。

どちらも段巻き仕様で、塗装はラックニス。
そのラックニスが経年劣化で溶解し、流れ、また固まったような感じで、厚さムラ、ケロイド状態など表面は大変な事になっておりました。
どちらも旧塗料を剥離してリフィニッシュして欲しいとの事です。

ラックニスはアルコールで意外と簡単に剥離は出来ます。が、1950年代に作られたらしいその竿は、塗料だけではなく、段巻きのシルクスレッドも劣化しており、塗料と共に糸もばらけたり、切れたり、崩壊して取れてくる始末です。
塗料を落とす際に力を加えないように加減して行うのですが、それでもボロッと取れてきます。
すべてではありませんが、1/3位は崩壊したでしょうか。
それでも塗装を剥いだ後のブランクは全く衰えを見せておらず、非常に健全なものでした。
いまから60年以上も前に作られた物にも関わらずです。

それぞれの持ち主さんに連絡の上、崩壊部のみ巻き直すという事になり、新たに段巻き復旧を行うのですが、何せ、無塗装の裸ブランクに段巻きが施してありますので、段巻きは問題ありませんが、塗装時に問題が発生します。

塗装はディッピングで行っているのですが、抜き上げ時に付着した塗料がわずかに下へ垂れ、段巻きの糸の段になっているところにわずかに溜まるのです。
ティップなど細い所では面も小さい為問題はありませんが、ミドルの下半分、バットでは各面も広くなる為に付着塗料も増え、垂れる量も大きくなります。
糸の段で止まりきらない塗料はそのままでは糸の段を乗り越え、更に下へ垂れます。
後で気が付くと涙が垂れたように垂れ後が残ります。
それを防ぐには各段巻きが塗料表面よりわずかに上がったところでスイッチを止め、暫く時間を置いて垂れさせ切るしかありません。
少なくとも1分位はそのままにしておきます。
段巻き感覚が約1インチ位ですので、巻上げ速度が1分間に約1インチ、停め待ちに1分、要は1インチ進むのに2分ほど必要とします。
従って13ftの3ピースですと1セクションあたり52インチですので単純に倍の104分程掛かってしまいます。

当工房のディッピング装置は床から上に設置してありますので、ブランクの付け外しは脚立に乗って行うのですが、下塗りの場合はともかく、仕上げ塗装の場合は付きっ切りになり、その間ずっと脚立上の杭状態になります。
段巻きの場合はそれがずっと続き、しかも4回行いますので、塗装だけで丸四日間脚立の人と相成った訳です。

しんどい作業ではありますが、綺麗に塗りあがった竿でまた持ち主さんが釣りを楽しんで頂けるのならそんなに素晴らしい事はありません。
奇しくも同じモデルが手元にやってきて同じくリフィニッシュというのは、考えただけでも凄い偶然ではあります。
当時作られた職人さんが今でも生きておられて、未だにちゃんと使える竿を見たとしたらどのように思われる事でしょう。
「それこそがハーディーたる所以だよ。」とでも言われるのでしょうね。


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